ジュエリーボックスの中のあたし
「え?橘さん?来ないよ。」



「ほんと?」



ユキはテーブルごしにあたしの目をぐっと覗き込むように見つめた。



この目にあたしが嘘をつけなくなることをやつはちゃあんと知ってるんだ。



ほんとにずるい人。



「本当に来ないんだよ。」



ただ今回の話は嘘じゃない。



本当に来ないのだ。



ある日を境にパッタリ来なくなってしまった。



確かええと、ユキが初めてあたしのマンションに来た、その次の日からだ。



「ふーん。」



少し考え深げにそうつぶやいた後、ユキは言った。



「わかった。じゃあ俺もなるべく急いでミリのマンション行くから。たぶん夜遅くなっちゃうかもしれないけど。」



やっとそう言ってくれたことにホッとしてあたしは頷いた。



「あっ、でも絶対ミッキーには触っちゃダメだよ!」



「は?なんで?」



「なんでも!絶対ダメだからな!」



いつになく強気なユキに押されてまたあたしは頷いた。



「?わかったよ。」



「よしよし。いい子いい子。」



いつの間にかすっかり完食したユキはあたしの頭をニコニコと撫でた。



胸がキュンとしたけど、ばれないようにばれないようにとあたしは無視して残りの味噌汁をのんだ。



ただユキが撫でている場所に全神経の感覚が奪われて、味噌汁の味がまったくしなかった。
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