悲しき恋―時代に翻弄されて―
そのとき、千与の瞳から一筋の涙が頬を伝った。

「千与様…如何なさったのですか?」

「…ふと思ったのです。わらわは、誠に由親を好いております。されど、アダムとエバのように契りを交わすことなど到底できぬ。
されど、わかっておるのに…この想いを消すことも到底できぬ。千与は如何したらよろしいのでしょうか。」

告げることのできない想い。伝えたとこで、同じ気持ちを抱いていても決して、結び付くことのない恋。時代が全てを崩す。
人知れず、千与のように涙を流す者はきっと星の数だけいた。

「―無理に忘れんとせずともよろしいですよ。泣きたくなったら涙を流してもよいのです。人を慕うことを辛いと思う夜もあるでしょう。されど、」

「されど…?」

「―ここに来たら神に祈りを捧げ、教えに従えればいずれその答えをお導き下さるでしょう。
私はしがない伴天連故、上手く言えずすみません。」

そう苦笑いするジョゼに千与は小さく首を振り、涙を拭った。そして懐からロザリオを取り出し、それを優しく包み込んだ。
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