金魚玉の壊しかた
「ご新造様……!」

奉公人たちが驚愕した様子で作業の手を止めた。


ちなみに「ご新造」というのは私のような武士の妻の呼び方である。


伊羽家ほどの家老家で、武家の妻女が台所仕事をすることはまずない。

私も雨宮家にいた時に家事をしたことなどなかったし、家老の妻がこんな場所に現れること自体有り得ないことなのだろうが。


何事かと硬直している奉公人たちに「ああ、構わず続けてくれ」と私は微笑んで、それから近くにいた下女に怖ず怖ずと声をかけた。

「その、私も朝餉の支度を手伝っても良いかな」

「な──」

恰幅の良い、中年の下女は絶句して、

「何を仰います!」

と、大慌てで首を振った。

「そのような真似をどうしてご新造様が……」

「いや、あの……せめて最初くらい、旦那様に手料理をと思って」

私はモゴモゴと口ごもりつつ何とか説明した。

以前、私の料理を「いつでも嫁に行ける」と言って食べてくれた彼に、嫁いだ今、もう一度私が作った料理を食べて欲しかった。

しかし町の長屋で一人で準備した時と違って、誰かにこんなことを伝えるのは物凄く照れくさくて、恥ずかしくて、真っ赤になってしまった。


すると、しばらく私を見つめて固まっていた下女のおばさんは、突然泣き出した。
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