金魚玉の壊しかた
出会ってから四日目の朝、私が目覚めてみると遊水は長屋から消えていた。

世話になった、この礼は近いうちにする、という簡潔な内容の手紙だけが残されていて──

随分と書き慣れた感じのする達筆のその文を握りしめたまま、一人きりになった長屋の中で、私はややぼう然となった。


最初にうつし世の人ではないような印象を抱いたこともあって、
天女の羽衣の話ではないが──この世に降りてきていた天人が元の世に戻って行ったかのような──あっけない非日常の終結を感じた。


何となく、

彼とはこれきりでもう二度と会えないのではないか。


そんな気がして、


出会ってほんの数日一緒にいただけなのに、得体の知れないところのあるあの男にどれだけ強く惹かれていたのかを思い知った。


いやいや、彼はかくり世の人間というわけではなくて、ただの円士郎の友人なのだから、円士郎に尋ねれば会えるに違いないと思うものの、

女のほうからそういうことを訊くなど非常識な時代だったし、やはりこれきりだろうと思って──


喪失感を抱えたまま、依頼のあった絵などを描いて過ごし──


再び私の前に遊水という男が現れるのは、
笑えることに、それからたった二日後のことだった。
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