未来のない優しさ
「縛られるだけじゃやだ。
私だって…」

すでに浴室に消えた健吾には私の呟きは聞こえなくて…。

それでも、私だって健吾を独り占めしたりわがまま言ったりしたい…。

そんな想いは溢れてるけど。
ずっと長い間抱えてきた苦しく重い罪悪感と後悔が、私にブレーキをかけていた。

けれど。

婚姻届の魔法なのか…。

さっきは健吾から感じる望さんの気配にダイレクトに拒否感を出して責めてしまった。

我慢なんて言葉は私からすっぽり抜けて。

そんな私を優しく受けとめてくれた健吾は何だか嬉しそうに目を細めていた。

シャワーの音が聞こえてきて…。

『一緒にシャワー浴びるか?』

って言われたのを思い出して。

まるで自分の体じゃないようなふわふわした感覚をまといながら…。

ゆっくりと健吾のもとへ向かった。
呆然とする顔を想像しながら…。
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