クロスロードラヴァーズ
「聖河君……いい匂いする。」
夕方の病室。
いつものようにベッドサイド左側の丸イスに座った柚枝が言った。
「いい匂い……?」
「花の匂い?香水?違うなあ……リンスの匂い?」
「梓が見舞いに来てくれたからな。恐らく、梓の髪の匂いだろう。」
そう話す聖河の顔は、どこか優しげである。
柚枝はムッとしたように口を尖らせた。
「うちの前で他の女の子の話しないでよ。デリカシー無いなあ、聖河君!」
「柚枝……?」
「梓ちゃんじゃなくて、うちを見てよ!うちは……うちは……聖河君が好きなんだから!」
柚枝は勢いに任せるかのように、聖河に想いを告白する。
聖河は面食らったように目を見開いた。
「柚枝……。自分は……」
「うち……頑張ってるんだよ?毎日会いに来てお世話して……。なのに、たまにしか来ない梓ちゃんの方がいいの?」
柚枝の質問攻めに、聖河は肩をすくめる。
「柚枝……気持ちは嬉しいが、自分はその気持ちには答えられない。」
「聖河君……。やっぱり梓ちゃんが好きなの……?」
「……わからない。」
「諦めないから……。うち、へこたれないんだからね!」
そう言うと、柚枝は駆け足で病室を出て行く。
苦い表情をする聖河の顔を、夕日が赤々と照らし出すのだった……。