ジュリエットに愛の花束を。
「じゃ、行くか。荷物はこれだけか?」
「うん」
何泊かできるくらいの手荷物を、樹が持ち上げる。
2年も居座ってた樹の部屋には一通りの物がそろってるし、今さら運び込まなくちゃならない物もないし。
着替えだけをつめた2つのカバンは、樹の愛車の狭い狭いトランクになんとか納まった。
……っていうか、工具とか出せばもっと余裕で入るのに。
相変わらず硬いシートに座って、樹のアパートに向かう。
10センチほど開けた窓から入り込んでくる風に目を細める。
冷たい風がやけに気持ちよく感じて、身体の中まで清々しくさせた。
またこうして樹の部屋に戻れることが素直に嬉しいし、数日前、樹の部屋を飛び出した時には考えられないようなスッキリとした気持ちだった。
ここ数ヶ月の出来事が嘘みたいに、嵐みたいに去って。
だけど、嘘なんかじゃなくて確実に存在していた出来事は、あたしを少しだけ成長させてくれていた。
……ように感じた。
部屋に入って荷物を置いた時、樹が「忘れてた」と声を出す。
不思議に思って振り向くと、樹がポケットの中から見覚えのあるモノを取り出してあたしに差し出した。