白き砦〈レイオノレー〉
プロローグ
 またあの夢を見た。

 見渡す限り荒れ果てた、石ころばかりの大地の上に、紗の衣のようなものがひらひらとはためいている。

 やがてそれが女性の姿に変わっていく。

 ああ、またあの瞳だ。

 こちらを見つめるスミレ色の瞳。

 波打つ金色の巻き毛の間から、吸い込まれそうなまなざしを注いでいる。

 なんという美しいおもざしだろう。けれどもなんという悲しそうなおもざしだ。

 あの女性は誰なのだろう。

 どこかで見たこともあるような気もするが、見知っているどの婦人でもない。

 何かを語りたがっているようだ。

 唇がしきりに動くのだが、言葉が声になって響いてこない。

 やがて彼女は詮なく首を振る。

 諦めないでくれ。

 わたしはいつだってここにいるし、あなたの言葉を聞こうとしてるのだ。
 
 どうかそのまま語り続けてくれ。今日こそはあなたの言葉を伝えて欲しい。

 スミレ色の瞳から、涙がひと筋こぼれ落ちる。

 涙は後から後から流れて宙に砕ける。

 そうしてあの美しい人は、まっぷたつに折れた杖を両手に抱きかかえ、憂いのこもったまなざしだけを残して、荒れ地の彼方へかき消えてしまうのだ。

 何も告げずに。
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