白き砦〈レイオノレー〉

2 麗公爵

 あたり一面が、紫色の光に満たされている。

 光はオーロラのように柔らかに形を変えながら、遙か上方から降り注いでくる。

 まわりには列柱のようなものが見える。

 それは天を突くほどに巨大で、頂上はかすんで見えないほどだ。

 ここはいったいどこだろう。まるで古い時代の神殿のような建物だ―――




 エレオノールはその巨大な列柱と列柱の間を、どこへ行くともなく彷徨(さまよ)い歩いていた。

 神殿の中に人の姿はなく深閑としていたが、寂しくも恐ろしくもなく、不思議と心の中は満ち足りている。

 エレオノールは軽やかな足取りで、柱の間を駆け抜けた。

 まるで宙に浮いているように、足は重さを感じない。

 そしてそのまま飛ぶように、息もつかずに神殿の外へ躍り出た。

 するとそこに、ひとり佇む人影があった。

 彼女の心に、不意にたまらないほどの懐かしさがこみあげた。

 足がひとりでに、人影向かって走り出す。
 
 唇が、まだ見ぬはずのその人の名を勝手に呟き出す。

(ああ、あなたは懐かしいウルフィラ……)

 エレオノールはその足の勢いの赴くまま、おぼろな人影に抱きつこうと手をさしのべた。

すると急に、ふっつりと幻影は消え失せた。
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