種のない花(15p短編)
 何時までも振り向かない彼女に、流石に不安になって、部屋を出ようかと悩んでいた時だ。
 窓ガラスに映る梨果が、声を立てず号泣している事に、やっと気付く。

 驚いて慰めると、やっと聞こえる程度の声で、返事をくれた。


「わ、わたしもっ……、すき。こうちゃんが、すき……」


 この日の事は、俺の人生でめちゃくちゃ嬉しかった出来事ベスト3に、未だ君臨し続けている。


 嬉しくて、幸せで。
 喧嘩も沢山したけれど、仲直りした後は梨果をもっと好きだと感じた。

 今までそうしてきたように、これからも一生、俺と梨果は一緒にいるものなのだと信じていた。



 高三になり、十八歳の誕生日を迎える前に、神妙な顔をした父に呼び出される。
 早く部屋に行ってゲームをしたいのに、なんて、渋々リビングへ下りると母も一緒に待っていた。
 凄く、嫌な予感がした。


 結論から言ってしまえば、俺は男性不妊、子供を残せない体らしい。

< 5 / 15 >

この作品をシェア

pagetop