お家に帰ろう。
明の思い出の中にある、幼い頃の哲司とのキスは、

甘い香りがする、薄くて固い、尖った唇だった。


久しぶりの、その唇は、
触れた瞬間から、ふっくらとして柔らかく、優しく明の下唇を包み込んだ。

と、同時に、
明も哲司の上唇に、自分の上唇を重ね直しては軽く吸い込み…

一度離れたものの、
すぐにまた重なり合って
さらに強く、
互いの感触と温もりを確かめていた。


明の後頭部に回した哲司の手が、しだいに、背中に下りてきて、
強く二人を引き寄せる。


そして、さらに激しく唇を押し付けてくる哲司。


「ん。」

「ん?」

「っと!」


明は両手で、哲司の頬を挟むようにして、二人の唇を引き離した。


「終わり?」

「…上手いじゃん。」

「なんか俺ら、イケそうじゃね?」

「終わり!」

「なんで?」


そんな哲司をさらに突き放して、

「何言ってんの?彼女いるくせに。」

と、立ち上がる明。


「おまえだって…キスしてる段階で裏切りだろ。」

「…もう、えっちゃんとはキスしたの?」

「え、まだ。」

「あたしも。…ならまだ、セーフだよ!」

「よくわかんね〜!」

「気にしないで。」

「気になる!」

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