お家に帰ろう。
市川に駅まで送られて、
家に着いた時は、すでに7時を回っていた。


「ただいま。」


玄関の靴で、将人が来ているのが分かった。


まっすぐ部屋へと向かい、
制服を着替えると、
洗面所で手を洗ってからリビングのドアを押し開け、中へ……。



「デートぉ?」

母親は尋ねながら、
明のおかずを用意しに席を立つ。


「別に、そんなんじゃないよぉ。」

と、お茶碗を片手に炊飯ジャーの蓋を開ける明。



昔から、食卓での席は決まっている。


将人が家を出ようが出まいが、
他の家族がその席に移ることはない。


だから明は、将人の正面の椅子を引き、無言で腰をおろした。


おかずを盛った食器を持って、テーブルに戻った母が言う。


「ん?暗いわね。なんかあったの?」

「そぉ?」

「なんでも無いなら良いけど。」

「…なんか、あんまり食欲ないなぁ。」

「もしかして恋わずらい?」

「何言ってんの。」


そのとき明は、はじめて将人と目を合わせた。



「最近、よく来るね。」

淡々と話かけ、箸を持つ。

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