臆病者の逃走劇
好き


「あ……」



何も、言えなくなった。

だってその東条くんの言う通りだったから。

言葉に詰まる私を、東条くんは顔をあげて見据える。



「俺は好きだっつったはずだ」

「………」

「なんで何も言わずに逃げた?」

「…あれ、は」



東条くんを、信じきれなくて。

言ってしまったら東条くんがどこかへ言ってしまいそうで、言えない。

そんな私を、東条くんは歯がゆそうに見下ろした。



「廊下で声かけようとしても逃げて、教室でも逃げて…っこんな強行手段とらせたのはお前だろ?」

「ご、ごめんなさ…」

「謝ってほしいんじゃねぇ!!」



怒鳴り声が、怖い。

初めて聞いた東条くんの真剣な怒鳴り声が怖いよ。



「ごめ…っ」



だけど、そう反射でまた謝ろうと口を開きながら、顔をあげた私の目にうつったのは。

ちっとも怒ってるような剣幕をした東条くんじゃなくて。


辛そうに、顔を歪めた東条くんだった。



 
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