臆病者の逃走劇
心が、痛い。
怒鳴られたりするより、何倍も何倍も。
心が痛いと思った。
「東条くん…」
「…俺だって傷つくんだよ。お前は、あの時から俺のこと変に誤解してるみてぇだけど」
「…あの時、って」
あの1年の時の、冬の日の話?
たしかにあの時の私も、彼を不真面目だと決め付けて…疑った。
「あ……」
そうだ。
私はあの頃から、東条くんの存在を知ったときからずっと。
彼は優しいと知りながらも、ずっと、疑っていた。
そんな私の心に、彼はきっと…気付いていた。