臆病者の逃走劇




『暗くなる前に…な』


………、

……………


『…ありがとう』




あの優しい時間が、頭の中で思い出される。

ずっと忘れたことのない、思い出。

この思い出がきっと、私の中の彼への恋心を育ててきた。

それが彼と、同じだった。

それだけで…涙が出そう。



「あれから、山本のこと見かけるたびに目で追うようになった」



同じ。



「どうでもいい女といるのが嫌になって、全員切った。ただアンタだけを見つめてた」



同じだよ、東条くん。



「声かけようかなとか…考えたことあったけど、結局恥ずかしさとかあって無理だった。付きまとってくる女もいたし」



ねえ東条くん。

全部、同じなの。


私たちはお互いに見つめ合っていたんだよ。



 
< 20 / 28 >

この作品をシェア

pagetop