臆病者の逃走劇
『暗くなる前に…な』
………、
……………
『…ありがとう』
あの優しい時間が、頭の中で思い出される。
ずっと忘れたことのない、思い出。
この思い出がきっと、私の中の彼への恋心を育ててきた。
それが彼と、同じだった。
それだけで…涙が出そう。
「あれから、山本のこと見かけるたびに目で追うようになった」
同じ。
「どうでもいい女といるのが嫌になって、全員切った。ただアンタだけを見つめてた」
同じだよ、東条くん。
「声かけようかなとか…考えたことあったけど、結局恥ずかしさとかあって無理だった。付きまとってくる女もいたし」
ねえ東条くん。
全部、同じなの。
私たちはお互いに見つめ合っていたんだよ。