臆病者の逃走劇
「東条くん。起きてっ」
今度は軽く、肩に手を添えて体を揺すった。
何度か揺すったところで「ん……」と東条くんが唸ったのが聞こえて、私は慌てて手を離す。
「………」
「………」
しばらく沈黙があったあと、東条くんは目をゆっくり開いて体を起こした。
ぼんやりとどこか一点を見つめて、空を見て、今度はしっかりとした瞳で私を見る。
その瞳はいつものようにキリッとしていて、もう寝ぼけてなんかいないようだった。
「…アンタは?」
「え?」
「名前」
「名前…」
何を言っているのか。
考えて、ああ名前を聞かれているんだと分かった。
何故か急に緊張が増す。