【件名:ゴール裏にいます】
結局女性陣は自分が注文した物を半分残し、それを僕が片付けるハメになった。
今は運ばれてきたチョコレートパフェに刺さっている花火に二人して夢中になってはしゃいでいる。
「千尋ちゃん花火綺麗ねー」
千尋ちゃんは返事の代わりに両手をパチパチと合わせ、丸い大きな瞳を更に大きくしてジッと花火を見つめていた。
僕は満腹になったお腹をさすりながらジェームスンの水割りをグラスの中で回して花火が最後の針火を飛ばすのを見ていた。
「終わっちゃったねぇ・・じゃあ食べよっか?」
少し寂しげな表情でウンと頷き、彼女らは山盛りになったホイップクリームをスプーンですくい取り口に運んでいく。その顔が喜びの顔に変化するまでに時間は掛からなかった。
「千尋ちゃん、美味しかった?お腹いっぱい?」
舞鶴橋の信号待ちをしているあいだ中、沙希ちゃんは千尋ちゃんの目の高さで話し掛けている。
「そう!良かった!あたしもお腹いーっぱい」
歩行者用の信号が青に変わり僕らは手を繋ぎ直して横断歩道を渡ってゆく。
赤信号で停止している先頭のベンツに那比嘉翔子が乗っている事などこの時の僕らは知る由も無かった――。
「ねー!ちょっと来てー!」
アパートに戻り、千尋ちゃんと一緒にお風呂に入った。沙希ちゃんはあの日の為に一人シャワーを浴びると言ったからだ。
風呂上がりに一人ソファーでくつろいでいる僕を、寝室で千尋ちゃんの着替えを手伝っていた沙希ちゃんが大きな声で呼ぶ。
「どうしたんですか?」
ゴキブリでもいたのか、位の気持ちで寝室を覗き込むと、千尋ちゃんが僕の母親の写真を抱え、何やら沙希ちゃんに訴えている様子だった。
「うんうんそうよ、この人はね、勇次くんのママだよ。大事な物だから置いといてね。千尋ちゃんいい子でしょ?」
沙希ちゃんの宥(なだ)める声も届かないのか、千尋ちゃんは更に興奮したように母親の写真と自分を交互に人差し指で刺し続けている。
「勇次くん、千尋ちゃんどうしちゃったのかな・・?」
沙希ちゃんはもう泣きそうだった。
「沙希ちゃん、紙とペンありますか?千尋ちゃんは幼稚園に通ってる位だから簡単な文字なら書けるんじゃないですか?」
「そっか!」