ツギハギの恋
文句を口にした瞬間、ヒルメ様があたしとひなたの額にスッと手をかざした。

それと同時に体が動かなくなる。



記憶を消すってひなたもあたしもお互いを忘れるってこと?



何それ?


何で!?



喋りたくても全身金縛りみたいで喋れない。


唯一、目だけが動くようであたしは隣のひなたを必死に見る。

ひなたも同じ状態らしく何か言いたそうにあたしを見ていた。



何で!?

やっとひなたがあたしを思い出してくれたのにまた記憶を消しちゃうの?

今度はあたしの記憶まで消して……。


何で意味わかんない!!




「不服そうだが高天が原の決まりでな。儂の力を見た者、聞いた者、体験した者の記憶は全てその事柄に関して消すことになっている」



ヒルメ様があたしの心を見透かしたように答えた。



「だがお前達を引き離すわけではない。布きれだった犬の赤い糸をそれぞれの小指に巻き付けた」



懐から扇子を出すとヒルメ様はそれをあたしとひなたに向けてヒラヒラと扇ぎ始めた。

胸を締め付けるような懐かしい香りが風に揺られて鼻に届く。



「お前達の思いは聞き入れた。記憶を無くしてもその赤い糸がお前達を巡り会わせるだろう」



ヒルメ様の声が頭を回る。


ダメだ……
体が動かない。

声すら……





抵抗は無駄だと悟った。

強い眠気に襲われてあたしはひなたを見つめながら重い瞼を静かに閉じた。
< 275 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop