【鬼短2.】鬼売り
「世の陰の闇…」
それは
大切に屋敷の奥にしまわれ、綺麗なものしか与えられていなかったお桐には、まるで縁のないものでございました。
ぼうっと宙を見つめるお桐の手を取って、商人は再び鬼を渡しながら、また柔らかく微笑みました。
「もう一度、のぞいて御覧なさいませ。」
―母の本音…
そんなものをまた聞くのかと、
一瞬ためらったお桐でしたが……
何故か、震える掌で、鬼を受け取っていたのでした。
もう嫌だと思う反面―
もっと、人の本音を聞いてみたいと
何やら黒くもやもやとした好奇心が、お桐の心を飲み込んでいきました。
再び、青く小さな点に目を近づけていきますと……
今度は、夜の風景が見えました。
板戸に囲まれた小さな部屋に、蝋燭が一本だけ、灯っていて…
そこでは、二人のお侍が、額を寄せ合って何やら話をしているようでした。
『…して、渡貫殿。ご息女のお桐殿は、どのように過ごしておいでかな?』
明かりに近い方に座った、壮年のお侍が言いました。
それは、お桐の輿入れ先の当主…お桐の舅になる、藩の加判役・板橋様でございました。