【鬼短2.】鬼売り
板橋様は、ずいと前ににじり寄り、父の額に触れんばかりに顔を寄せました。
『抜かりなく、必ずや秘密裡に頼み申しますぞ。』
父も、声を落としうなずいた。
『無論。……加判役家老たる板橋殿が、藩の財を横領しているなど……ばれたら一巻の終わり、拙者もろとも死罪は免れませぬ。』
(…板橋様が…藩のお金を?!)
婿家の当主が、悪事に手を染めている…。
お桐には、衝撃でした。
しかし、更に衝撃的な事実を、板橋様が口にされたのです。
『ははは…その財を蔵から持ち出しておるのは、渡貫殿、そこもとではないか。
どちらかがしくじれば、一蓮托生。我らの野望は泡と消える事になる。
互いに、口だけは慎まねばのう…』
父も、笑いました。
『まことに、まことに。家老と矢蔵頭人が、そろって殿の首を狙っておるなどと…殿の後見たる筆頭家老殿などに洩れた日には!!
恐ろしゅうて、考えたくもござらぬ。』
二人は低い声で笑いました。
…お桐は、全身に冷たい汗をかきながら、
鬼から顔を離しました。