【鬼短2.】鬼売り
「……ち、父上が…」




―…家族思いで、正義感に溢れ、おおらかで、立派な父…


その父が、あろうことか、自身が守るべき藩の蔵から勝手に財を持ち出し

しかも、殿様の暗殺まで企てている…。





お桐は、動悸と震えが止まりませんでした。





商人は、つづらのおぶい紐の結び目を確かめながら、淡々と言いました。



「筆頭家老殿は殿様の奥方様のお父上。加判家老殿は、御側室様のお父上。

どちらにも若様がおありだと聞き及んでおりますね…。」





お桐は呆然と商人を見、震える唇で尋ねました。





「…これは…私を厭う方の声が聞ける物、ではないのですか…?」




とんでもない秘密を知ってしまい、お桐は恐怖に震え上がっておりました。



商人はゆるゆると首を振りました。




「人の世の陰を知る物、とも申し上げました。

お嬢様が美しいとお思いだった者達が、どのような陰を孕んでいるか…

それを知る為の物でございます。」








そして、にこりと微笑みをうかべました。









「慣れれば、ご自身が望んだ者を自由にのぞく事もできます。
旦那様の浮気…下男のへそくり…

ありとあらゆる本音が見えるのです。


…これがたったの一匹10文。



如何です、鬼は?」





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