【鬼短2.】鬼売り
これがあれば、どんな秘密も自分の物…。
お桐は、恐ろしいと感じながらも、やはり何やら黒っぽい好奇心に
心がうずくのを止められませんでした…。
「…このような物が、10文…?」
掌で鬼を転がしながら、ぼうっとした口調でお桐は言いました。
商人は、またもや、にぃ、と笑いながら
「お高うございますか?」
と 尋ねました。
お桐は、酔ったようにぼんやりと、微笑みながら…首を振りました。
「いいえ。…かように良き物が、ただの10文とは。
安すぎるくらい。」
そう言ってにっこり微笑むと、お桐は、豊かな黒髪から櫛をひとつ抜き…
商人に渡しました。
「これで、ひとつ購いたい。」
櫛は、桜模様の金蒔絵に螺鈿の蝶をあしらった、見事なものでした。
10文どころか、金一両、かかるくらいの贅沢な品。
商人は、首を振りました。
「これではお嬢様が損をなさいます。」
それでもお桐は、櫛を商人に差し出します。
「良いのです。これだけの価値があると、私が思うのですから。
これでこの鬼、売っておくれ。」
そうまでおっしゃるなら…と
商人は櫛を受け取りました。
「ありがとう存じます。」
そして、再びつづらを背負い…