近未来拡張現実エンタメノベル『MIKOTO-The Perfect PROGRAM』
☆片想いバウチャー(3)

「お前が自分で行けばいいだろ、俺は仕事中だ」
「私だって洗濯中だよ」
「洗剤入れてボタン押すだけだろ」
「終わったら干さなきゃならないもん」
これ以上戦っても無駄な気がしてきた。次はもう洗濯してあげないとか言いそうだ。
「わーったよ、んじゃ行ってやるから、バウチャーよこせ」
「お願いねー」
笑顔で俺の手に、一枚のカードが手渡された。

教育バウチャーの電子クーポンカードだ。
国が発行した教育用Suicaとでも言えばいいのだろうか、中には学校教育のみを対象にした電子マネーが入っており、例えば参考書や体操着、夏休みの読書指定図書など、教育用途限定で5万円ぶんが自由に使えるシロモノだ。

家庭の学費の負担を減らすとともに、国の教育水準を底上げできるこのシステムは、政府が過去に現金のバラマキ政策で失敗した反省を踏まえているともいえた。だが文科省の反対で法案成立にずいぶん時間がかかったとこが、いかにもこの国らしい。

「んじゃ行ってくるよ」
「ついでに午後ティー買ってきて!レモンね」
「はいはい」

正直今日は仕事が手につかない。気晴らしにこういうのもいいか、と俺様号にまたがり、喫茶店をあとにした。
背中では青空をバックに白い洗濯物がひらひらとなびいていた。
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