近未来拡張現実エンタメノベル『MIKOTO-The Perfect PROGRAM』
☆片想いバウチャー(2)

本当はずっと見ていたかったのだ。踏み込んで言うなら、ずっと一緒にいたかったのだ。
なのに何故キミはパトカーで行ってしまったのだ。
パトカーに乗りたいなら、キミを俺様号の後部座席に乗せ、ぴーぽーぴーぽーと口で言ってあげたのに。頭にパトランプぐらい乗せたのに。
何故俺は電話番号くらい聞かなかったのだ。メアド交換をしなかったのだ。

そう思ったのは俺が旧い地球人であったからだろう。
つい先程「着いったアッー!」のログを閲覧すると、

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(一言)
ぽこ:かゆ うま
約10分前 現在地はココ
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意味するところは不明だが、となりの大三島で魚介リゾットでも食べているようだった。
どうやら彼女は観光客なのか。そりゃそうだ、ここは観光地だ。

俺はこのヘヴィーに甘苦しい気持ちを鎮めようと必死になっていた。
第一好きになって何になる。俺が彼女に惚れたとしても、休みが終われば彼女は遠い鏡の国へと帰っていくのだ。そうだアリスだ。谷村新司。
観光ビジネスを営む者の悲しき宿命。彼女を幸せにすることは出来ても未来永劫一緒に幸せになることは出来ないのだ。

などと一言も会話することなく終わりを告げた真夏の夜の悲恋に嘆き暮れていると、まいらが白い洗濯物を胸いっぱいに抱えて店の奥から登場した。
「洗濯!ついでにやっちゃうから出して!」
昨日のぶんだけお願いします。

「あ、それと」
まいらがニヤリとした。とても悪い予感がする。
「夏休みの宿題の、読書感想文用の本が欲しいんだけど、本屋さんに取りに行ってもらえる?」
「どこの本屋?」
「大三島」
どんだけ人使いが荒いんだ。
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