近未来拡張現実エンタメノベル『MIKOTO-The Perfect PROGRAM』

☆自意識ピエロ

☆自意識ピエロ(1)

好きな子ができました。
まったくお話も出来なくなり、
そのまま恋が終わりました。

これが俺の、恋の原体験だ。こんな奴がどれくらいいるのかわからないが、少なくとも俺はそうだった。
何故なら震えるからだ。笑えば口元はピクピクし、指先は震え、歩けば左手と左足が同時に出る。だから俺は笑えない。手は差し出せない。歩くことは不可能。
残念にも俺に好きになられてしまった女の子は、ほぼ例外なくこの直立不動の冷凍サンマみたいな俺を目撃することになった。
臆病な自分を見られるのが怖い。馬鹿にされるのが怖い。
だから俺にはコマンドが、ひとつしか用意されていないのだ。

にげる

*ぼくは にげだした!

冷凍サンマが逃げだした。

こんなこともあった。
はじめて好きな女の子が家に泊まりに来ました。
朝までちゃんと手を出さずにいたのに、そのままちゃんと恋が終わりました。

俺はその恋がどうして終わってしまったのか、しばらく不可解のままだった。
母の集めていた昭和の少女マンガによれば、朝まで手を出さなければ
「本当に私のことを大切にしてくれているのね」
と感激し、瞳に星を瞬かせ、俺を好きになってくれるはずだったじゃないか。
その時用意されたコマンドは、確かこんな感じだ。

おきる ねる

*ぼくは あさまで おきていた!

ちなみに同じ失敗を2度やった。

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