近未来拡張現実エンタメノベル『MIKOTO-The Perfect PROGRAM』
☆自意識ピエロ(2)

風切る中、真昼のサンセットビーチが俺の右側を通り過ぎていく。太陽のもと、水着で浮き輪の観光客はみな楽しそうだ。ビーチボールが宙を舞い、光るしぶきがぱしゃぱしゃとはねている。

ビールでも売ったら儲かるかな。
黒いラベルが頭に浮かんだ。麦芽ホップ協働契約栽培100%。
明日の予定はここに決まりだ。ついでに日焼け止めクリームを買おう。

そんなことを考えながら自転車を走らせていると、海の向こうにキラキラ光るいつもの多々羅大橋が見えてきた。

薄型透明太陽光パネルがぎっしりと貼り付けられた白い橋だ。
表面積がかなりあるのに加え、真夏の太陽で熱せられた鉄の塊の発電量は馬鹿にできないものになる。
今日はずいぶん発電効率が良さそうだ。がんばれ橋ーと応援しながら自転車は進み、やがて多々羅大橋入り口の自転車道にたどり着く。

昨日はひどくつらい登坂行となったこの道も、ゆるゆる走れば気持ちがいい。
緑色に塗装された自転車道を、景色なんて眺めながらゆっくりと登る。まぶしい瀬戸内海にはひょうたん島がひょっこりと浮かんでいた。

自転車を楽しく漕ぐにはコツがある。それは絶対に無理しないこと。
つらいなと感じたらすぐにスピードを緩める。先へ進むことよりも、景色を楽しむようにする。
自分にとって最も快適な状態を維持することが、まずは一番重要。
そうすれば勝手に筋力も、肺活量も上がっていく。焦って無理をすると、どうやら人間はその行為そのものが嫌いになってしまうようなのだ。

登坂の道中、周囲が一気にクリアになる。
視界の半分以上がはなぐもりの天球にくるまれている。
俺はこの光景に感動したから、この島に住み着いたようなものだ。

坂を登りきり、眼前には超巨大で白い多々羅大橋がお出ましだ。
キラキラな226メートルの鉄塔の頂上からは、まるで後光が差すように極太のワイヤーが道路に向かって伸びている。

海風を受けながら、ちょろちょろとした速度で俺様号を前に進めていると、塔の真下、多々羅鳴き龍の姿が見えてきた。
昨日のゴール地点だ。歩道には紙吹雪がまだちらほらと赤や黄色に散っている。

そうだ、昨日はここで、あの子に出逢ったんだ。

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