近未来拡張現実エンタメノベル『MIKOTO-The Perfect PROGRAM』
第1章 しまなみ2019

☆スパークルの夏

☆スパークルの夏(1)

僕の心臓まだ動いてる、と言ったのは誰だっただろうか。どくんと心音がした。

青い夏の空気が肺を満たした。今日も暑い一日になりそうだ。

2019年8月1日午前9時。朝の青空の下、俺は温度を上げはじめたアスファルトの自転車道を微妙にちょうど良い速度で巡航している。

右手にはスモールな緑の島々が点在する瀬戸内海を抱え、左手には遠く山並みと、ぽつらぽつらある民家や食堂や観光客の笑顔などを適当にやり過ごし、このチャリそろそろ買い替えようかなあなどと考えながら、オンボロな俺様号はしまなみ海道の生口島(いくちじま)を突き進む突き進む。

昔からしまなみ海道大好きっ子を自称してやまない俺は、5年前に意識を回復してからというものの結局この島に棲みつくこととなり、朝インターネットカフェで目を覚ませばレンタルシャワーを浴び歯を磨き、バックパックから着替えを取り出してはふくを着て、昨日の衣類をコンビニ袋に突っ込んで、シャワールームを抜け出したかと思えばお会計でお金を払ってネットカフェから去っていく。

そんなビバ的ネット難民な俺様生活が5年も続いている。
きっと天国の父さんと母さんはそんな俺のマイライフを見て「ちゃんと野菜食べてんの?」とか言ってるに違いない。
いやそれ以前にそろそろ俺もオッサンという肩書きがさまになるお年頃だし、そろそろ落ち着いて結婚でもしたらどうなのと、俺の灰色の臓物をえぐるようないじめっこ的発言を実の息子に展開し、やがて俺は死んでしまうのだ。
たすけてお母さん。お母さんに殺される。

かくして俺様号はしまなみ海道生口島東海岸を西へと突き進み、途中のコインランドリーのおばちゃんパーマに洗濯物を白い歯で渡し、先週頼んだ洗濯物を受け取り、お願いしまーすと手を振って、再び俺様号に飛び乗った。
あばよパーマネント。洗濯物は来週取りにきます。
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