近未来拡張現実エンタメノベル『MIKOTO-The Perfect PROGRAM』
☆スパークルの夏(2)

そんなこんなでしまなみ海道のサイクリングロードを右へ左へ遁走の日々。
せめてネットカフェくらいはお会計踏み倒して逃げることがないように、足を使って観光客相手にちまちまと食いつなぐ日常なわけだが、俺の過去になにかあまりにひどい事があったのは知っているのだ。

2011年の2月くらいからの3年間、記憶がサッパリ消えている。
どうやら俺は、俺の記憶を思い出したくないようだ。

具体的には、「MIKOTO」という名前がダメだ。リアルで。
「MIKOTO事件」とか聞いてしまうと、俺は大地の底から巨大な拳でアッパーカットを食らって宇宙の果てまでゴーゴーヘヴンしていきそうな衝撃と、ひどい恐怖に襲われるのだ。

何故そんなにニガテなのかは思い出せないし、たぶん思い出す必要がないんだろう。
それどころか多分俺は、その記憶を取り戻した途端、ショックでおしっこを漏らしながら死んでしまうようなフシがある。
そんな事になったらまたレンタルシャワーとコインランドリーに逆戻りだ。それだけは避けたかった。

そのため俺は新聞やテレビの報道番組や、ネットのニュースなどからは極力距離を置いている。
もし俺がMIKOTOの名を目にしたならば新聞は火あぶりライターの刑にあい、テレビはキレる若者の金属バットで撲殺され、ネットのブラウザは普通に閉じるボタンで閉じられるだろう。そこまでの猛烈な拒否反応があるのだ。

とまあ、色々と俺のセンスオブワンダーに満ちた日々を語ってみたわけだが、しまなみは本当に綺麗な観光地だ。

白く青く光る空と海。
丸い水平線。
巨大な白い橋。
視界の半分以上を占める天球。

この島々の奇跡のような光景が、俺の人生を変えたと言ってもいい。
世の中にはそんな信じられない風景が存在するのだ。
まああくまで俺から目線だが。

道路にアーチ看板が立っていた。
「どうかスパークリングな夏を」というキャッチが視界に飛び込んだ。

浜辺を見ると、黄色い砂浜で釣りをしているカップルっぽい二人が見えた。
びじねすちゃーんす。
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