砂のお城
将来はピアニストになりたい、と言っていた優花は、有名な先生のレッスンを受けるために、転校したのだ。

遠く、と言っても隣の県に引越しただけだったのだが、まだ子どもだった当時の俺にとって、そこはとてつもなく遠く感じた。

物理的に距離が離れてしまえば、幼なじみなんて関係は役に立たない。

その時、初めて気がついた。

俺は、優花の見送りには行かなかった。

いや、行けなかったんだ。

きっと、優花の前で泣いてしまうと思ったから。

部屋の窓から、ずっと俺の家のほうを見つめる優花を見て、俺はひとりで泣いていた。

それっきり、優花とは会っていない。

仲の良かった母親たちが、たまに電話をしていたおかげで、優花がどうしているのかは、知っている。

けれど、俺の中の優花は10歳の春に別れた姿のままだ。

あの日から5年。

優花はどんな女の子になったのだろう。
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