ウェディング・ストーリー
「...ホントはあの日、アイツに会ったんだ」
何のことか分からない、というような顔をした私に向けて
それでも彼は言葉を続けた。
「いつもみたいに、残業手伝ってやるつもりだって。笑って言ってた」
――その日は、おそらく二人が付き合いだした日...
あの日を境に、残業のとき待ってくれる相手は変わった。
「アイツの余裕な態度に腹立って...」
いつもと同じ、冷静な表情の彼。
少しだけ違うのは___微かに伏せた瞼。
「本気なわけ?って訊いたら黙って、何にも言わなかったから...
「別れる気ないなら、俺が行く」って言った」
「近づかせないようにしたの、俺。回りくどいやり方して。卑怯な手、使った」
「いつか話さないといけない。そう思ってたけど、でもそしたら、亜紀が離れていく気がして...言えなかった」
そう言って悲しそうに、笑った。
始めて見る弱い彼。
そんな表情に、ひどく胸が痛んだ。