桃太郎【Gulen】


「俺たちの国は、もうすぐ田植えの季節に入る。出雲になど行けば、一月は帰って来れぬ。そう安々と兵は出せん。」


 我ながら苦しいいい訳だな・・・。


 もっとマシな言葉は選べなかったものか。


「それは、わらわの国とて同じこと。それに、大和の武士が出雲の鬼によって惨敗したことの噂、こちらに届かないと思わないでか?」


 やはり、届いていたか。


「だからこそ、俺がわざわざ赴くことになった。」


「スサノオウの6男坊ごときが、大方、体よく捨てられただけだろう。そんな身分もない男に、わらわの貴重な下僕を預けるほど、愚かではないわ!」


「グッ・・・」


 言わせておけば・・・。


 仮にも神の血を引くこのヤマトタケルを前に、そのような言葉を吐くとは・・・。


「面白い話ではないですか?」


 このまま、輝夜姫に赴いたことが、無駄足になろうかとしたところで、姫の後ろから透き通るような声が聞こえた。


< 21 / 59 >

この作品をシェア

pagetop