かえりみち
正卓は一瞬、言葉を失った。
なんと答えたらごまかせるだろう。
「何を言うかと思ったら・・・」
正卓は笑い出した。
「お前のお父さんは、ちゃんといるだろう?」
「ひよどりの園の先生が言ってた。ぼくのほんとのお父さん、パパじゃないんだって。その人、すんごい悪い人なんだって。ママはぼくのこと見ると、お父さんのこと思い出しちゃうから。だから一緒にいちゃ、だめなんだって」
「・・・」
「おじさん、ぼくのこと、よく見てたよね?学校の帰り道とかで」
あまり賢くないだろうと、すっかり油断していた。
意外とちゃんと観察している。
正卓は、作戦を変えることにした。
この子を元の場所に無事に帰せれば、それでいい。
「・・・よく分かったねぇ」
正卓は、不敵な笑いを浮かべた。
「そう・・・私は君の、ほんとのお父さんだ。そして、すごーく悪い人なんだよ。人を殺したことだってある」
あながち嘘ではない。
その後の人生が壊れてしまうほど人を傷つけるのは、殺しとたいして変わらない。
歩の顔の色が、ますます白くなった。
そう、それでいい。
怖くて、ここから逃げ出したくなっただろう?
正卓は、歩の細い首をつかんだ。
「お前のことなんか、片手でひねりつぶせるぞ!やってやろうか、ん?」
本当に細い首だった。
力を入れたら、本当に折れてしまいそうだ。
正卓の鬼気迫る演技に、歩の唇が一瞬、恐怖で震えた。
しかし次の瞬間-
歩は覚悟を決めたように、フゥと息をついた。
そして、正卓をまっすぐに見つめた。
「いいよ」