かえりみち

「なんだかすごそうにも読めるが、結局は賞歴もないんだろ?要は高伊音楽院にいたっていうのと島田幸一に師事したっていうだけ。音楽院だって、卒業してないんじゃないか、この書き方だと」

「まぁ、島田幸一に師事してたっていうのはポイント高いけどな。あの人、今まで弟子をとったことないから」

「素晴らしいチェリストだということと、素晴らしい教師であることとは別の問題さ。自分のチェリスト生命が危ないから、教育者としての自分を印象付けるためのパフォーマンスってことも考えられるぞ。お前のところ、彼で特集組むつもりか?」

「分からん。聞いてみないことには。で、なんで練習を公開しないんだ?」

「ふん。やっぱり大したことないんじゃないの?」

由紀子の前で声高に今回の代役を前批評しあっている二人は、音楽誌関係の記者らしかった。
由紀子は二人に気づかれないように、そっとそこを後にした。

あ、この靴響く・・・。



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