かえりみち
「何やってるの?ここで」

「あ、お仕事お疲れ様でーす」

「で?何やってるの」

ちぇ。ごまかし大作戦、失敗。チーン。

「えーと。中でチェロ弾いてる人の、様子を見に来ただけなんですけれども・・・」

「邪魔しに来たのか?!」

「いや、とんでもない!僕は彼の親友ですよ」

警備員が春樹の顔を照らした。

「なんだ、阿南じゃないか」

「え?」

警備員の顔をよく見ると・・・

「安川教授!!・・・何やってるんですか、そんな格好で」

安川は、どこで手に入れたのか、上から下まで完璧に警備員の格好だ。

「いやほら、音楽院の中には葛西のこと、よく思ってない人もいるだろう?半年前にはあんなこともあったばかりだし。だからね、その、護衛と思って」

「・・・ちょっとやりすぎですよ」

「うん、ちょっとやりすぎなんだよ、彼」

安川はチェロが聞こえてくる大ホールの方へ顔を向けた。

「ほとんど一晩中弾いてる。何かに取り付かれたみたいに」



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