かえりみち
*********

別に悪いことをしているわけじゃないのに、こんなところから入ると泥棒に入っているような気分になる。
ん?いや、許可されてないのに入ってる時点で、既に不法侵入か。

春樹は、高伊音楽院を囲っているレンガの壁からぴょんと飛び降りながら、そう思った。

まぁ、そんなことはどうでもいいや。

空高く昇った満月のおかげで、真夜中でも行く先がよく見える。
春樹は講堂を目指して駆け出した。

おっと・・・警備員だぜ。
危ない、危ない。

「本番まで、泊めて」
そう言ったはずの卓也は、結局まだ一日もうちに泊まりにきていない。
まぁ、どこにいるかは分かっている。

春樹は講堂の入り口にたどり着くと、そっと扉に手をかけた。
案の定、扉に鍵はかかっていない。
扉を開くと、中からかすかにチェロの音色が漏れてきた。

やっぱりね。

講堂のエントランスは真っ暗だが、幾度となく出入りした場所だ。
春樹はまっすぐ大ホールの入り口へ向かった。

その時。
「ちょっと、君」
突然、懐中電灯の灯りが春樹を捕らえた。

ガビーーーーン!
やべぇ、見つかった!!

怖い顔した警備員が、春樹の前に立ちはだかっていた。

< 140 / 205 >

この作品をシェア

pagetop