かえりみち


窓の外の空は、もう次の太陽が昇り始めている。

工房の作業室。
頭にタオルを巻いた春樹が、真剣な表情でチェロのF字孔から魂柱立てを引き抜いた。

深く息をつき、魂を入れたばかりのチェロを眺める。

生まれたての朝日を浴びて、輝くチェロ。

そっと弾いてみる。
心に染み入るような解放弦の音色。

「・・・いよぉーし!」

満足げに微笑む春樹。

タクが帰ってきたら、これ見せるんだ。

あいつはきっと、
「すごい!ハル、ネックが曲がってないね!」
「音が出る!」
とか言って、驚くんだろうな。
失礼なやつめ。

春樹は、チェロに向かった卓也の、真剣な眼差しを思い出す。

あいつがあれだけ真剣なんだから、こっちだって真剣にならなきゃ、あいつには追いつけない。

夢があるんだ。
俺の作ったチェロを、いつかあいつに弾いてもらう。

それが、今の俺を動かしている。





< 194 / 205 >

この作品をシェア

pagetop