かえりみち
窓の外の空は、もう次の太陽が昇り始めている。
工房の作業室。
頭にタオルを巻いた春樹が、真剣な表情でチェロのF字孔から魂柱立てを引き抜いた。
深く息をつき、魂を入れたばかりのチェロを眺める。
生まれたての朝日を浴びて、輝くチェロ。
そっと弾いてみる。
心に染み入るような解放弦の音色。
「・・・いよぉーし!」
満足げに微笑む春樹。
タクが帰ってきたら、これ見せるんだ。
あいつはきっと、
「すごい!ハル、ネックが曲がってないね!」
「音が出る!」
とか言って、驚くんだろうな。
失礼なやつめ。
春樹は、チェロに向かった卓也の、真剣な眼差しを思い出す。
あいつがあれだけ真剣なんだから、こっちだって真剣にならなきゃ、あいつには追いつけない。
夢があるんだ。
俺の作ったチェロを、いつかあいつに弾いてもらう。
それが、今の俺を動かしている。