かえりみち


高伊総合病院の夕日のあたる廊下を、白衣を羽織った桜庭医師がやる気なさそうに歩いている。
後ろから、中年の女性看護師が桜庭を急かせるように付いてきて、これから運び込まれる救急患者の状態を大声で説明している。

「患者は59歳、男性、高伊音楽院の教授。右アキレス腱を切断している模様。」

「音楽院の教授が、なぜアキレス腱を?リズム取りすぎたのか?」

看護師も首をかしげる。
「なんでも、地団駄を踏んでいたそうです。よほど悔しいことでも、あったんですかね」

・・・ますます意味が分からない。
音楽の世界の人間というのは、どうも意味が分からん人種が多いな。
あいつも、そうだけど。

おかげで、こっちは今夜の合コンがパーだ。
美人フライトアテンダントとの合コンだったのに。
ちぇ。

桜庭は、エレベーターのボタン(下)を押した。
階数表示はそれとは逆に、上に上がっていく。

くそ。
一番待たされるパターンだ。

「上かよ・・・」




< 196 / 205 >

この作品をシェア

pagetop