かえりみち
高伊総合病院の夕日のあたる廊下を、白衣を羽織った桜庭医師がやる気なさそうに歩いている。
後ろから、中年の女性看護師が桜庭を急かせるように付いてきて、これから運び込まれる救急患者の状態を大声で説明している。
「患者は59歳、男性、高伊音楽院の教授。右アキレス腱を切断している模様。」
「音楽院の教授が、なぜアキレス腱を?リズム取りすぎたのか?」
看護師も首をかしげる。
「なんでも、地団駄を踏んでいたそうです。よほど悔しいことでも、あったんですかね」
・・・ますます意味が分からない。
音楽の世界の人間というのは、どうも意味が分からん人種が多いな。
あいつも、そうだけど。
おかげで、こっちは今夜の合コンがパーだ。
美人フライトアテンダントとの合コンだったのに。
ちぇ。
桜庭は、エレベーターのボタン(下)を押した。
階数表示はそれとは逆に、上に上がっていく。
くそ。
一番待たされるパターンだ。
「上かよ・・・」