かえりみち
チェロを弾く幸一と、それを見守る由紀子。
歩のエチュードが主題部分にさしかかった。
その時―
幸一が驚いてチェロを弾く手を止める。
歩のエチュードの、主旋律が聞えてきたような気がした。
「!」
間違いない。
単線のゆったりとした主旋律が、下の庭から聞こえてくる。
それは一巡りすると、幸一を誘うように立ち止まる。
「・・・」
由紀子が幸一の肩に手を置く。
幸一は微笑んで、弓を弦にあてた。
そして、二つのチェロはぴたりと息を合わせて弾き始める。
長い長い時を経て、ようやく一つになったメロディ。
二つのチェロは、ときに寄り添うように、ときに片方が片方の手を引くように、喜びと希望の旋律を奏でていく。
-ねえ、歩?
この曲の名前が、やっと分かったよ。
君がいて、
僕がいて、
そして由紀子がそばにいて、
初めて成立する、この曲の名前。
それは、
『しあわせ』というんだ。