かえりみち
「・・・欠席でーす」
ステージの裾から、声がした。
呆れて物も言えん。
ピアノ伴奏はあいつか。
早乙女教授は手元の資料に目を落とした。
「ピアノ伴奏:阿南春樹」となっている。
「葛西。早く出てきなさい」
暗幕から、顔をのぞかせる春樹。
「阿南、お前じゃなくて。葛西はそこにいるんだろ? 返事しなさい」
春樹が鼻をつまみ、
「はーい」
早乙女のイライラが沸点に達した。
「葛西!学校をやめたくなかったら、出てくるんだ!!」
机を叩き割らんばかりの形相。
座っていた椅子が、急に立ち上がった衝撃で後ろに倒れ、その音が講堂に響き渡る。
卓也が、おずおずとステージに現れる。
怯えた表情。
そんな、取って食われるような顔をして私を見るな。
「・・・そこに座りたまえ」
卓也は言われるままに、ステージ中央に置かれた椅子に向かうが、足ががくがく震えて普通に歩けない。
ようやく椅子にたどりつくと、助けを求めるように座り込んだ。
「曲目は・・・」
「夢のあとに」
早乙女教授が資料から探し当てるよりも早く、ピアノの前に座った春樹が答えた。
「よろしい。始めなさい」