かえりみち
春樹は最初から弾きなおした。

もう一度。

もう一度。

卓也は震え続けている。
呼吸も荒く、顔は蒼白だ。

「ラーラーラーラー」
たまらず春樹が、主旋律を歌いだした。

がっくりとうなだれ、ため息をつく早乙女教授。

やはり駄目だったか。

「こんな簡単な曲も弾けないのか・・・」

「教授、僕ホントは上手に弾けるんだよ。知ってるくせに~」

怒る気も失せた早乙女。
メガネを外して、葛西を見た。

「葛西。お前の才能は認める。だからこそ今まで在籍させたんだ。でもあんな事があっては、もうこれまでのように特別扱いという訳にはいかないんだよ。この追試を落としたら、退学の手続きに入る。…それでも弾く気にはならないか?」

「弾く気はあるんです。弾けないだけなんですよ」

さっきまで寝ていたはずの小林教授が、意地悪そうに鼻で笑った。
「舞台度胸も、才能のうちと言うがね?」

卓也は一言も発せず、うつむいて震え続けている。


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