かえりみち
数時間後―
卓也は、古い大きな扉の前に立っていた。
分厚い一枚板で作られたその扉は、もとは大層立派なものだったのだろう。
縁には彫刻が施され、アールを描いた丈夫で黒いハンドルがついていた。
しかし今や、塗装はほぼ剥がれ落ち、むき出しになった板面の半分かそれ以上がつたで覆われていて、見る影もない。
まるで、世の中から忘れられたような、あるいは来る者を頑なに拒んでいるようにも見える。
ハンドルを握る。
ドアは、ドアではないかのようにびくとも動かない。
「・・・」
卓也は、ドアを拳でたたいた。
強く、3回。
よく響いた。
しかし、ドアが開く気配はない。
「・・・」
卓也は、力任せにドアを蹴り上げた。
一瞬おいて、
ドアの上の鉄格子のついた小窓から、薄暗い明かりが漏れた。
「誰だ。こんな夜中に」
ドアの中から低い男の声。
「僕だよ。入れて」
「・・・お前は当家の人間ではない。帰れ」
卓也が叫んだ。
「どこにも僕の帰る場所、ないんだよ!」
絶叫に近かった。
ドアはしばらく黙り込んだ。
その後。
きしむ音をたてながら、突然、ドアが開いた。