かえりみち
仕方なくドアを開けると、そこに卓也がいた。
開ける前から大体予想はついていたが、
案の定、濡れねずみのような情けない姿。
正卓は失望ともどかしさの入り混じった感情で、踵を返した。
昭和の洋館のようなしつらえの天井の高い空間が、正卓の持つハンドライトの明かりにぼうっと浮かび上がる。
滑らかな流線型に象られた階段の手すり。
優美なギリシャ風の彫刻。
畏怖漂う絵画。
高い吹き抜けの一番上にはシャンデリアらしいものも見える。
しかし、そのどれも埃を被って久しく、さながら幽霊屋敷のよう。
その底を歩く二人。
会話はない。
右足をひきずって歩く正卓の足音だけが響いている。
「変わってないね・・・」
卓也が懐かしそうに発した言葉も、正卓は受け流した。
懐かしがっている場合ではない。
正卓は長い廊下の先にある、ドアを開けた。
温かな明かりがその隙間から漏れた。
「入れ」