さよならさえも言えなくて
何を言ってしまったんだろう。
今日初めて会話をしたのに、しかも彼には彼女がいるのかもしれないのに。

振られるに決まっている。

今ならまだ間に合う。一言、『冗談だよ』って、にっこり笑えばそれでいい。
そうすればまた今まで通り、メールをして、時には励ます様な友達で居られるのだから。

それ以上に望む事なんて無い。


「……あたしっ、あの、その……好きだよ。椎名君のこと」


結局あたしは元の関係に戻る事を選ばなかった。
自分でもびっくりした。でも、この際キッパリ振られた方がいいのかもしれない。
これはいいチャンスなんだ。
勇気を出して彼の方を見ると、やっぱり困った様な顔をしていた。

この選択は、間違っていたのかもしれない。
ただでさえ彼には泣く程の悩みがあるのに、これ以上彼の負担を増やしてはいけない。

あたしは椅子から立ち上がると、床に置いていたバッグを手に取った。


「ごめん!……今の、忘れて!じゃあね」


あたしは彼の顔も見ず早口でそう言うと、ドアまで早足で向かった。
とにかく早くこの場から立ち去りたかった。
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