Memory's Piece
壁に腰から体当たりをするようにして、引っ付いてきた虫を落としてボクは強く地面を蹴った。
痛みで動けないらしい相手と距離をとり、ついでとばかりに身をよじり近くにいた雑魚を前足で弾き飛ばす。
ザサッーと勢いよく地面を滑っていく雑魚はうめき声をあげて静かになった。
気絶しただけで息絶えてはいないので、とどめを刺そうと素早く近付いて爪を振りかざそうとしたら、またスルリとまた間に割り込まれてしまった。
ガキンッと爪を刀に阻まれてボクはチッと舌打ちを零す。
攻撃をしようとすると避けられるけど、相手がこちらを攻撃しようとする気配もない。
一体、何がしたいのかが分からない。
これは殺すか殺されるかのゲームなのに、殺意も何もあったもんじゃない。
「フシャーッ!」
毛を逆立てて威嚇をしてみても、相手は怯むことなくボクを真っすぐに見ながらしっかりとした足取りで近付いてくる。
もしこれが、ボクの怒りの琴線に触れるような気配をしていたら瞬時に引き裂いてやったんだけど、そんな気配はかけらもない。
というかむしろ、気配が無防備すぎて殺る気が起きない。
「魅稀、落ち着け。大丈夫だから」
そういって慈愛に満ちた表情で近付いてきた人間は膝を地面につけてボクと目線を合わし、ぎゅうっとボクの首に腕を回して抱きしめてきた。
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