Memory's Piece

深く息を吸って匂いを確認すると、それは固くなった体を解す嗅ぎ慣れた優しく暖かな波狼の匂いだった。

逆立てていた毛を下ろし、パタンパタンとゆっくり尾を振ってゴロゴロと喉を鳴らせば理性を取り戻したことが波狼に伝わったらしく首に回されていた腕がゆっくりと離れて行った。

温もりが離れていくのにちょっと残念な気持ちになりつつもボクは素直にゴロリと地面に伏せた。

グルリと波狼の足元を囲むようにして伏せると、よく出来たと言わんばかりに耳裏を撫でられる。

いつもだったら馬鹿にするなと引っ掻き傷の一つや二つを付けてやる所だけど、今回ばかりはボクもされるがまま。


「死にたくない奴はさっさと帰りな。魅稀の気が変わらない内に・・・・な。」


迫力ある笑みを浮かべて雑魚にそういった波狼はシッシッと手を振って、嫌そうに顔をしかめた。

ボクを撫でたときに血がついて紅く染まった手が目についたからだ。


「やりすぎ。」


『にぁ?(そ?)』


ポンポンと首元をたたかれながらそう言う波狼に返事をして、ボクは静かに高い位置にある波狼を見上げた。

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