Memory's Piece

部屋の隅っこまで下がって、警戒するように姿勢を低くしていると、波狼は苦笑いしながら「すまん」と近づいてきた。

殺気まで漂わせているボクの態度にただならぬ物を感じ取ったらしい。


「すまん、魅稀。笑いすぎた。・・・・ごめんって。」


慎重にボクに近づきながら、波狼は怖がらせないようにゆっくりと手を伸ばしてくる。

波狼でさえ知らないボクの秘密。そんな秘密の地雷の一端を、頼兎は無意識に踏んだんだ。

伸ばされた手に噛みついて、毛を逆立てるボクに「怖がるな。何もしない。」と言い聞かせるように波狼はボクに視線を合わせてくる。

傷ついた獣に接するように、優しく丁寧にボクの頭を撫でるその手は優しかった。

深く深呼吸をして、ボクは心を落ち着けるのに全神経を集中させた。

大丈夫。深いところまではいってない。

・・・まだ、戻れる。


「・・・ごめん、魅稀」


シュンッ・・・と項垂れる頼兎に、気にするなと尻尾を振ってボクはポスンッとベッドの上に飛び乗った。

グルリと円をかくように丸くなれば、すばやくその意味を理解した波狼が頼兎を部屋から連れ出していく。

自分の意志では人型に戻れないボクは、猫型になった時はいつも寝るようにしていた。

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