Limiter
ハヤトが近づいてくる。
私と友達の目の前までやってくると、彼はうちわを見せながら、

「これから飲みに行きませんか? 今なら2時間2千円ですよ」

と言った。


普通にキャッチされた。


一週間ぶりに再会したハヤトに笑顔で話しかけようとしていた私の顔が凍りついたのは言うまでもない。

確かにあの日、私もハヤトもろくに喋ることもせずにお互い卓で寝してしまった。
顔を覚える暇も無かっただろう。

私はブログや「COLORS」のHPを見ているのでハヤトの顔を覚えているが、
ハヤトからしたら、ほんの数十分しか見ていない、しかも酔って寝てしまった状態だったのだから、覚えていなくても頷ける。
加えて4日間の放置だし。
私のことを忘れている理由はいくらでも思いついた。

でもだからと言って、一度場内とはいえ「指名」したホストに対して、
「しょうがないよね」と言えるほど私は優しくなかった。


「うわーっ。忘れられてる!」

そう言って私はハヤトからわざと2メートルほど遠ざかった。

何だか悔しかった。
悔しいと感じること自体、どんどんハヤトにハマっていってることなのだと気付き、
さらに悔しさは増した。

ハヤトにとってはその程度の客だったのか。
指名に繋げたくなるような客では無かったのか。
そりゃ4日間も放置されるわけだ。

でも、今ここで出会えた偶然に、私は神様に感謝したくなった。
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