―White Memory―
そして、ずっと無口だった灯吾が口を開いたのはビールが空になった頃。
「…相手が居ない俺が言っても説得力ないけどさ。」
喋る度に浮かぶ灯吾の白い息を見つめ、あたしはそっとその言葉に耳を傾けた。
「例えば、悲しい時や辛い時。誰にでもあると思うんだ。」
灯吾の声は、こんな寒い雪の日でも心地好く感じる。
冬が似合う、澄んだ彼の声。
「そんな時、クスは誰を真っ先に思い浮かぶ?」
「…真っ先に?」
「そう。」
悲しい時
辛い時
あたしは誰に?
あたし、は―――。
言葉に詰まったあたしに
灯吾は口元を少しだけ綻ばせ、あたしの頭に手を乗せた。
「それが彼じゃない、もしくは彼が浮かばないならやめた方がいいと思う。」
慰めなんかじゃなく
気休めなんかじゃなく。
「恋が寂しい、と思うのは、クスのせいじゃないよ。心の問題なんじゃない?」
灯吾の言葉は
あたしの心に刺さったんだ。