―White Memory―
それからしばらく、病院には行かなかった。
灯吾の顔を見れば、あたしはまた彼を急かしてしまうかもしれない。
それが怖くて、灯吾を追い詰めてしまいそうで、足が遠退いてしまった。
大学に行けば少しは気が晴れると思ったけれど、周りから向けられる同情の視線。
恋人に忘れられてしまった悲劇のヒロインみたいに、あたしはまるで腫れ物扱いだった。
かと言って、一人きりの自分の部屋は寂しくて。
涙に濡れる夜を一週間過ごし、あたしは久しぶりに病院へ向かうことにした。
以前の灯吾が好きだった、リンゴをふたつ抱えて。
「…あ、」
長い廊下を抜けて灯吾の病室の扉を開けると、彼は本を読んでいた。
たった一週間会わなかっただけなのに、胸の奥がぎゅっと縮まったみたい。
何だか気恥ずかしいような、照れくさいような。
そして、思った。
…あたし、灯吾に会いたくて仕方なかったんだ、と。