―White Memory―
「…久しぶり、だね。」
と声を掛けたあたしに、灯吾は本を閉じて少しだけ笑ってくれた。
「体はどう?まだ、痛む?」
「…うん、まだちょっとね。」
ぎこちない会話。
ぎこちない二人の距離。
久しぶりに見る灯吾は
目元の腫れも幾分ひいて、頬にあった痛々しい傷もほんの少しだけ消えていた。
「…あ、リンゴ持って来たんだ!食べる?」
沈黙が怖くて取り繕うように話を振ってみる。
「…リンゴ?」
「うん。灯吾、リンゴすごく好きだったんだよ。」
「そうなんだ。」
引き出しにあった果物ナイフで皮を剥いてゆく。
そしてひとつめを剥いたところで、灯吾にリンゴを差し出した。
「ありがとう。」
笑った灯吾は、シャクッとおいしそうな音を立ててリンゴを口にする。
それを見て、あたしはふたつめのリンゴにナイフを入れた。
そして、全てを剥き終えたあたしにリンゴを頬張った灯吾がふいに尋ねて来た。
「聖華さんは食べないの?」